教員のエッセイ
ミネソタの冬
JK
米国ミネソタ州がどこにあるかご存知だろうか。多くの人はミネソタ州という名前をなんとなく聞いた覚えはあるが、どれがどこにあるかを知らないことがほとんどだ。正直、私もミネソタ大学に来ることが決まるまでは、それがアメリカのどのあたりに位置するか知らなかった。
ミネソタ州は、アメリカ合衆国の中西部(中央やや東よりの一番北)に位置する。西側にノースダコタ、サウスダコタがあり、南にアイオワ州があり、南北にミシシッピー川が流れている。州都はセントポールだが、すぐ近くにあるミネアポリスの方が規模は大きく、2つあわせてツインシティー(Twin Cities)と呼ばれている。
ミネソタの冬はとにかく寒い。12月の初めに到着したばかりの時は、寒いといっても氷点下くらいで、たいしたことないな、と思っていたのだが、年が明けて1月に入ってからは、摂氏で-20度になる日が続き、外に出るだけで顔が凍りつく思いがした。アメリカの冷蔵庫との異名もあるらしい。ご存知のようにアメリカでは温度は摂氏ではなく華氏を用いるので、たとえば10Fのように表す。これは今の気温なのだが、摂氏に直すと-12度である。しかし、一度マイナスの華氏を体験すると、10Fくらいは大したことないように思えてくるから不思議である。
なお、ここミネソタでも今年は久しぶりに雪の多い寒い年らしい。私は南国愛媛で育ったので、あまり雪に縁がなかったのだが、雪が積もっているのを見るとなぜかウキウキしてくる。もっともこれは防寒着をしっかり着た上で、雪かきなどの労働をしなくてもいいからだろう。とはいえ、もともと雪が多いことが当たり前の地方なので、雪が降った朝などには除雪機が大活躍してくれるおかげで、歩くのもそんなに困ることはない。このあたりは、山がちな日本とは違うところだろう。
それにしても、気温が-20℃以下になる日は、5分も歩いただけで顔が凍りつく。それ以外の部分は厚手のオーバーなどを着込んでいるのでまだましだ。帽子も必需品である。といっても、帽子は頭を覆うため、というより耳を隠して耳が凍りつくのを防ぐためのものだ。あんまり寒い日は、こちらの人も口のところにマフラーをぐるぐる巻きにして、目だけを出して歩いている。中には、目だけを出して頭をすっぽり覆うマスクをしている人も居て、日本ではギャングくらいしかそんな格好はしないが、こちらではそんな格好もしばしば見かける。
一方で雪が降った後の晴れた日には、サングラスをして歩いている人をよく見かける。スキー場でほとんどの人がゴーグルをしているように、積もった雪に太陽が反射してとてもまぶしいので、車を運転する際にはサングラスも忘れないようにしないといけない。
こんなに寒いとなかなか外を出歩く人も居ないと思われるかもしれないが、そこはそれ、ミネアポリスには「スカイウェイ」という優れものがある。これは建物と建物を2階部分でつないだ通路で、外気は遮断されている。このスカイウェイがダウンタウンの主要な建物をつないでいて、一歩も表に出ずにショッピングなどを楽しむことができるようになっている。このスカイウェイは市内75ブロックを結んでいて、駐車場からショッピングセンター、本屋、映画館、銀行などさまざまなところに行くことができる。それを知らないと、デパートの中を半袖シャツで歩いている人も見かけて驚くことになる。
このスカイウェイは人気の少ない通路には監視カメラが設置されていて、治安にも気を使っているようである。ミネソタ州は全米でも最も住みやすい街に選ばれているそうで、あるアンケートでは全米で最も安全な街の第3位になったという話である。12月末の休みにニューヨークに遊びに行ったのだが、どこに行っても人、人、人、と人で溢れかえっていて、すぐ東京を連想した。大都市はどこもそうなのか分からないが、人が多すぎるせいか却って他人に構うことができなくなっている。それに比べるとミネソタは良い意味での地方都市という感があり、何気ない気遣いが心地よく感じられる。
ミネソタでは冬には冬なりの楽しみ方がある。クロスカントリースキーなどのウィンタースポーツもさることながら、Holidazzle Paradeというエレクトリックパレードなどもクリスマスを彩るお祭りである。火曜日から日曜日まで約一ヶ月の間毎晩、ミネアポリスのダウンタウンNicollet Mallでいろいろなテーマで仮装した行列がパレードをするというもので、近郊から大勢の人がやってきて見物する。
また、一月の終わりからはWinter Carnivalが、セントポールで開催されている。なんでもこの行事は、1885年にニューヨークのレポーターに「セントポールはシベリアみたいに寒くて、あんな寒いところに人は住めない」と言われたのに怒った人々が、セントポールは人が住んでいるだけではなく冬をこんなに楽しんでいる、というのを証明するために始めたという。電飾で彩られたIce Palaceがそのシンボルとなっていて、これまた大勢の人が詰め掛けるお祭りの一つになっている。
なんだかミネソタ観光案内のようになってしまったが、やはりしばらく住んでいるうちに街に愛着が湧いてくる。とは言っても、まだミネソタの中をそれほど見て回ったわけではない。機会があれば、また色々報告させていただきたいと思う。
(2004-2-11)