教員のエッセイ
ミネソタの春
5月になってミネソタにも春が訪れた。3月の終わりくらいから暖かい日が続いたり、4月には気温が華氏87度(摂氏30度!)になるような日もあって、ずいぶん暖かくなって来てはいたのだが、5月になって一斉に緑が色づき、花があちこちで咲くようになって、ようやく春が訪れたのだと実感することができるようになった。
冬の間は気づかなかったが、ミネソタ大学のキャンパスは芝生が多い。4月頃から日差しの暖かい日になると、学生たちが大勢この芝生の上に寝転んで、本を読んだり会話に興じたりしている。ミネソタの冬は6ヶ月も続くから、その間外に出られない代わりに、春になって暖かくなるとなるべく外の空気を楽しむ習慣があるようだ。言われてみれば、通りに面したカフェやレストランでは、通りに椅子とテーブルを並べて屋外で食事ができるようにしているところもよく見かける。夕方の帰り道では、本当に大勢の人が表で飲んだり食べたりしていて、みんな楽しそうである。
夕方のこういった楽しみは、やはりデイライト・セービング・タイム(夏時間)のおかげと言ってもよいのかもしれない。夏時間は4月の第一日曜日から始まる。私はというと、そのことに全く気づいてなくて、待ち合わせのために迎えに来てくれた人が、「時間に遅れちゃった」というので理由を尋ねたら、「今日からデイライト・セービングなのに時計を直すのを忘れてた」という返事で初めて、夏時間が春から始まることに気づいた次第である。
夏時間は、時計を1時間早めるので、起きる時間にはまだちょっと薄暗いというのは変わらないが、夕方になってもまだ日は暮れてこない。夜になるまでの時間が長いので、仕事が終わった後の時間でレストランなどに行って楽しもう、ということになるようである。なお、コンピュータなどは自動的に夏時間を調整してくれるのだが、普通の時計は自分で時間を合わせないといけないから、そのへんはちょっと面倒だ。でも、みんなが一斉に夏時間になるので特に混乱することもないのだが、日本ではやっぱり慣れてないと難しいだろうな、という気はした。
しかし、この冬から春にかけての大きなトピックの1つはバス・ストライキである。日本での交通機関のストライキはだいたい一日くらいで妥結することが多いが、今回のバス・ストライキはなんと40日以上にも及ぶ長いもので、これはミネソタ史上でも最長のようである。その前にストライキがあったのは95年だというから、運が悪いというべきか。ちなみにストライキをしたのは、市議会の運営するツインシティを走るバスで、郊外バスなどは運行されていたが、私はちょうどこの市バスを利用して大学に通勤していたので、ストライキの影響を直接に受けることとなった。幸い、研究室の秘書の人が車で送り迎えをしてくれたため、身動きが取れないということはなく非常に助かった。大変感謝している。それでも、あちらの都合とこちらの都合を合わせないといけないため、不便を感じることも多く、いつストライキが終わるのかとしばしばニュースを見ていた。しかし、最初の一週間くらいはそれなりにニュースになっていたが、しばらくするとニュースでもほとんど見かけなくなってしまった。聞くところによると、賃金の問題と保険の問題があるらしい。市が運営しているため予算が限られており、ストライキの最初に組合と知事の間で話し合いが持たれて以降、交渉すらほとんど行われず、ほとんど根比べ状態が続いていた。一ヶ月が過ぎて、ストライキの最長記録を更新するようになって、やっと組合から妥協案が出され、市側もそれに応じたということのようである。アメリカでは長期にわたるストライキが行われることがあるが、利用者の側としては、やはり早期に妥結してもらいたいものである。車を持っている人は多いので、私のように、職場の人に連れて行ってもらったり、カープール制度(乗り合い制度)などを使うことによって、生活自体に支障はでないが、市バスを使う人は学生や貧しい人が多いため、そういう人にしわ寄せがくることになってしまうのだ。
余談になるが、バス・ストライキの間、ダウンタウンの犯罪率は減少したらしい。バスを使ってダウンタウンに来る人が減ったために、そこでの犯罪も減ったということのようだ。とはいってもダウンタウンの商店にとって客が減っているということだから、あまりありがたいことではないのではなかろうか。
また、期間パス(31日)などは、ストライキの間使えなかったので、有効期限が残っているパスを市バスの会社に送ると、残り期間に合わせた新しいパスか、相当金額の小切手で返金される。小切手による返金は送られてくるまでに多少時間がかかるが、簡単に預金として銀行に入金できるので便利である。
これから夏になって、ミネソタの一番よい季節が始まる。学生たちも夏休みに入って、夏季クラスを取ったり、バイトにいそしむなどするようだ。次の機会には、ツイン・シティー以外の風景なども紹介したいと思う。
(J・K)